駄文1
そのとき、明確に死を覚悟したのかと訊かれれば、答えは否だった。
どう考えても、助かりようのない場面ではあった。
路地裏に追い詰められ、三人のおっさんに囲まれている。しかもおっさんたちは武器なぞ持っていた。
二十歳になるかならないかのガキを追い回すには、ちょっと大袈裟すぎやしませんかね。追手がひとりならまだなんとかなったろうが、三人もいるとなるとお手上げである。逃げ切ることすら難しい。
さんざん駆け回ったせいであがった息を整えようとするが、じりじりと狭まる包囲網のせいで気があせるばかりだ。
右に抜けると見せかけて……左!
「……っ!」
あっさりと見抜かれて、鞘に入ったままの剣で殴り飛ばされた。直撃は避けたけど……ううぅ、横腹がいてえええええ。
「なぁ……ひとつだけ頼みがあるんだが」
いかにも観念したふうを装って、震える声を絞り出してみる。
が。
「ダメだ」
「即答かよ! 普通さぁ、末期の頼みなら……って展開にならないか?」
「おまえの言葉には耳を貸すなと言われているのでな。諦めろ」
俺は大きなため息をついた。
やれやれだ。なんだってこんな小僧を警戒するんだかなぁ。
警戒されているのなら、隙をうかがっても無駄ってことだ。それなら……!
立ち上がり、背に負った長剣の柄に手をかけたとき、場違いな明るい声が路地に響いた。
「こんなとこにおったんか」
声の主に視線を向けると、殺気だった雰囲気をものともせず、俺と同い年くらいに見える男が立っていた。
黒いロングコートに黒いシャツに黒いズボン、 ご丁寧に黒い帽子までかぶっているが、その髪だけが明るい金色で目を引く。
その男は、軽い足取りで近寄ってきた。
「まったく、なにしとんねん、探したで?」
俺を殴り飛ばしたおっさんが、剣を持ったままの手をわずらわしそうに振る。邪魔するならば……というわけか。
「なんだ貴様。怪我をしたくなければとっとと去れ」
「そうもいかんねんなー」
その男は軽く首をかしげると、ポケットに突っ込んでいた手を頭上高くあげる。
その手に握られているそれは……閃光弾!?